期間限定薄桜鬼ブログ
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現代パロで千鶴さん転生ほのぼの小咄を、ひとつupしました。
千鶴さんはまったく記憶がありません。もう社会人です。
カテゴリーはALL CASTですが他のキャラが出ているかは微妙です。
そんな謎な小咄ですが、お茶請けにでもなれたら嬉しいです///
もしよろしければ、右下のタイトルからどうぞ///
千鶴さんはまったく記憶がありません。もう社会人です。
カテゴリーはALL CASTですが他のキャラが出ているかは微妙です。
そんな謎な小咄ですが、お茶請けにでもなれたら嬉しいです///
もしよろしければ、右下のタイトルからどうぞ///
**********
ふらりと、一人で旅に出るのが好き。
小さな旅行鞄ひとつで東京駅から電車に乗る。
新幹線は使ったり、使わなかったり。急いでいる時はありがたいけれど、目的地までの何もかもをまるで無かったことにしてしまうような速さにどうしても慣れない。電車を降りた瞬間、何故か言いようのない寂しさを覚えて来た方向を振り返ってしまう。
何でかな。
京都駅の新幹線ホームに降りた私は、今日も東京方面を振り返って首を傾げた。
そこに見えるのは、午前の光に白く光る車体に真っ青なラインが眩しい東海道新幹線。
長く長く続く車両、まっすぐなホーム。
その先でゆるやかにカーヴして消えている、二本のレール。
綺麗な平行線。
その向こうの景色は、やっぱり想像が付かなくて……少し寂しい。
「……歩こ……」
小さく呟いて階段へと足を向けた。
京都駅の巨大な駅前ロータリーに出たところで、仕事のメールが飛び込んできた携帯の電源を切った。取引先に心の中で詫びる。ごめんなさい、月曜日にちゃんとご連絡します。
底冷えするような晩秋の風に首をすくめながら腕時計を見ると、午前10時までもう少し。温かいお茶を片手にこの土日の予定を考えたいところだけど、この辺りで落ち着けるような喫茶店はまだ開いてない。
「四条あたりまで歩いてるうちにあちこち開くかな」
と、独りごちた私の前で、通りかかった人が振り返って怪訝そうな顔をした。
またやってしまった。
私には普通の声の大きさで独り言を言う癖がある。兄にもよく指摘されるのだけど、どうにもこの癖は抜けてくれない。
私は慌てて足を西へ向けて歩き出した。
京都駅の前を抜けて、塩小路堀川の交差点へ。そこから、堀川通りを北上する。堀川は京都でも屈指の幹線道路だから道幅も広く車両も多く、風もよく吹き抜けて寒い…!
でも、西本願寺脇を抜けていくこの道を通ると、京都に来たなぁという気持ちになれるから、ついこの道を歩く。今日もお寺の脇には観光バスがずらり。うんうん、京都名所のひとつだよね。寒いけどお互い京都を満喫しましょう、と顔も知らない団体観光客さんへエールを送って、北へと歩く。
団体ツアーで来るなら、あの観光客さんたちは、京都初めてなのかな。
私は中学の修学旅行、高校の研修旅行、大学に入ってからはバイト代をつぎ込むようにして京都に来ている。社会人になってからは京都以外にもあちこち一人旅をするようになったけど、京都が圧倒的に多い。JRのコマーシャルのキャッチフレーズにこれだけノせられる人も珍しいんじゃないかと自分で思う。あのフレーズには本当に弱い。
「そうだ 京都、行こう」。
……誰よあれ考えたの!
あれを聞く度に「そうだ、京都行こう」と思ってスケジュール帳を開いてしまう。
なんかもうどうしようもないな、と苦笑が浮かんだ。
四条に出れば10時もまわって、お店も開いていていいかんじ。
遠く祇園まで真っ直ぐの道を見晴るかしてから(これも癖かな)、少し脇道に入った。適当に喫茶店を見つけてドアをくぐる。チリン、という可愛らしいドアベルの音がした。
「いらっしゃいませ」
落ち着いたトーンの声に出迎えられて、私は観葉植物に囲まれた窓際の席に座った。小さな通りに面した硝子窓は床から天井近くまで一面に張られていて木造の店内に陽光を迎え入れている。町屋づくりの建物を改築したのか、店は奧へと細長く広かった。時間的に開店したばかりみたいで他にお客さんの姿はない。窓際には2席しかないから、混雑時には競争率高いかも。
アンティーク調のテーブルの上、銀のメモスタンドに載せられた小さなプレートには珈琲のメニューが並んでいる。裏返すと紅茶のメニューもあるけれど、どうやらここは珈琲のお店らしい。
お水をテーブルに置き、温かいハンドタオルを「どうぞ」と手渡してくれた店員さんに、お店の名を冠したブレンド珈琲を頼んだ。
「畏まりました」
あ、なんだか丁寧な対応で落ち着くな。
顔を上げると、もう店員さんはこちらに背を向けてカウンターに向かっていた。男の人だ。私よりは上かな……でも、わりと若い人みたい。会社員もいいけど、美味しい珈琲を淹れられるとか、そういう特技があれば喫茶店の経営なんかもいいなぁ。
……いえ、珈琲淹れられるかどうか以前に、私に経営の才能なんてないです。
自分で一人つっこみをして、ため息をつく。
手にしていたタオルの温かさに慰められたような気がした。
さて、とハンディタイプの京都地図を出した。観光ガイドではなく、普通の地図。市街地の縮尺は3,000分の1から5,000分の1で、細かい道も載っているからこれがあればまず迷わない。
ぱらぱらとページを捲って今日明日はどこを廻ろうかなと考える。この時間が楽しい。歩き慣れた町だから、どこに行くのも自由気まま、気楽な一人歩きだ。
陽のある内に鴨川沿いをお散歩してもいいし、河原町あたりでお気に入りの喫茶店を開拓してもいい。
──そうだ、喫茶店と言えば。
このお店もすごくいいんじゃないか、と思った私のところへ、珈琲のとてもいい香りが漂ってきた。柔らかくて濃厚で、すこし甘みのある香り。珈琲ってこんなに香りがたつものだったかな。
思わず芳香の出もとを探してカウンターの方へと視線を向けると、お盆にカップを載せて店員さんがこちらへ歩いてくるところだった。縦には広いけれど幅の狭い店内に並べられたテーブルを器用に避けて歩いてくる。
そして湯気と香りのたつコーヒーカップを私の前に置いてくれた。
「お待たせいたしました」
置かれたカップは土の手触りがしそうな和風の焼き物。ゆるゆると光る褐色の珈琲がとても収まりよく見える。ただ、私には少し重そうかも。取っ手がついているけど両手で持ったほうがいいかな。
ああ、でも美味しそう……。
私が珈琲に見とれていると、店員さんはことり、と同じ焼き物で出来たミルクピッチャーを置き、
──もうひとつ。
「こちらはお砂糖に使ってください」
と、お猪口のような小さな焼き物を置いた。
そこに入っていたのは。
金平糖、だった。
まっしろな金平糖。ぜんぶ、まっしろ。
指先でひとつまみしたくらいの、量の。
ちいさなほし。
喫茶店でお砂糖代わりに出てくることもあると、聞いて知ってはいたけれど。
初めてだった。
でも、それが甘いことを私は知っている。
優しくて甘い味がする。
って、食べたことは幾らでもあるんだから知っていて当たり前なんだけど。
そういうことじゃなくて、
──なんだろう、これは。
色がついてないからだろうか。
子供の頃からおなじみの金平糖はもう、それはカラフルなもので。
こんなに真っ白なばかりの金平糖は初めて見た気がする。
「──」
何かを尋ねようと私が顔をあげると、チリン、と音がしてお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
先程と同じ柔らかいトーンで応えて、店員さんがお客さんを出迎える。
私は話しかけるタイミングを失って手元に視線を落とした。
気持ちまで落ちかけた私を、珈琲の香りがふわりと包んだ。そうだ、冷めないうちにいただかなくちゃ。こんなに美味しそうな珈琲なんだから。
両手でカップを持ち上げて少し口に含む。
と。
──うわ、何、これ、
「……美味しい……!」
思わず声を上げてしまい、途端、向けられた視線に気づいた。
また、やってしまった。
店員さんと、いま入ってきたばかりの若い男性客がカウンター辺りから少し驚いた様子でこちらを見ている。
「……すみません」
小さく頭を下げると、二人とも笑顔を浮かべてくれた。よかった、良さそうな人たちで……!
私はもういちど二人に頭を下げ、気持ちを落ち着かせて珈琲を口にした。
深くてコクがあるんだけど、苦くない。これなら甘党の私でも、ミルクもお砂糖も要らない感じ。
でも、せっかくだから。
ちいさな白い星をひとつ、ふたつ、褐色のなかへ落とす。
さっと溶けるものではないから、その時を待つようにゆっくりと珈琲を飲んだ。
なんか、いいな。
こういう時間。
店の奥ではさっきの二人の話し声と、珈琲豆を削る音。私が頼んだのとはちょっと違う、少し爽やかさのある香りが漂ってくる。
口元には深い味の珈琲。その底で優しく溶けていく白い星。
折り重なる香りと、味と、時間。
京都、という町で。
いつしか私は、ホームに降り立った時の寂しさを忘れてしまった。
そして、器に残っている金平糖に手を伸ばす。
そっと歯を立てると、かりっと──。
どこか懐かしい音がした。
ふらりと、一人で旅に出るのが好き。
小さな旅行鞄ひとつで東京駅から電車に乗る。
新幹線は使ったり、使わなかったり。急いでいる時はありがたいけれど、目的地までの何もかもをまるで無かったことにしてしまうような速さにどうしても慣れない。電車を降りた瞬間、何故か言いようのない寂しさを覚えて来た方向を振り返ってしまう。
何でかな。
京都駅の新幹線ホームに降りた私は、今日も東京方面を振り返って首を傾げた。
そこに見えるのは、午前の光に白く光る車体に真っ青なラインが眩しい東海道新幹線。
長く長く続く車両、まっすぐなホーム。
その先でゆるやかにカーヴして消えている、二本のレール。
綺麗な平行線。
その向こうの景色は、やっぱり想像が付かなくて……少し寂しい。
「……歩こ……」
小さく呟いて階段へと足を向けた。
京都駅の巨大な駅前ロータリーに出たところで、仕事のメールが飛び込んできた携帯の電源を切った。取引先に心の中で詫びる。ごめんなさい、月曜日にちゃんとご連絡します。
底冷えするような晩秋の風に首をすくめながら腕時計を見ると、午前10時までもう少し。温かいお茶を片手にこの土日の予定を考えたいところだけど、この辺りで落ち着けるような喫茶店はまだ開いてない。
「四条あたりまで歩いてるうちにあちこち開くかな」
と、独りごちた私の前で、通りかかった人が振り返って怪訝そうな顔をした。
またやってしまった。
私には普通の声の大きさで独り言を言う癖がある。兄にもよく指摘されるのだけど、どうにもこの癖は抜けてくれない。
私は慌てて足を西へ向けて歩き出した。
京都駅の前を抜けて、塩小路堀川の交差点へ。そこから、堀川通りを北上する。堀川は京都でも屈指の幹線道路だから道幅も広く車両も多く、風もよく吹き抜けて寒い…!
でも、西本願寺脇を抜けていくこの道を通ると、京都に来たなぁという気持ちになれるから、ついこの道を歩く。今日もお寺の脇には観光バスがずらり。うんうん、京都名所のひとつだよね。寒いけどお互い京都を満喫しましょう、と顔も知らない団体観光客さんへエールを送って、北へと歩く。
団体ツアーで来るなら、あの観光客さんたちは、京都初めてなのかな。
私は中学の修学旅行、高校の研修旅行、大学に入ってからはバイト代をつぎ込むようにして京都に来ている。社会人になってからは京都以外にもあちこち一人旅をするようになったけど、京都が圧倒的に多い。JRのコマーシャルのキャッチフレーズにこれだけノせられる人も珍しいんじゃないかと自分で思う。あのフレーズには本当に弱い。
「そうだ 京都、行こう」。
……誰よあれ考えたの!
あれを聞く度に「そうだ、京都行こう」と思ってスケジュール帳を開いてしまう。
なんかもうどうしようもないな、と苦笑が浮かんだ。
四条に出れば10時もまわって、お店も開いていていいかんじ。
遠く祇園まで真っ直ぐの道を見晴るかしてから(これも癖かな)、少し脇道に入った。適当に喫茶店を見つけてドアをくぐる。チリン、という可愛らしいドアベルの音がした。
「いらっしゃいませ」
落ち着いたトーンの声に出迎えられて、私は観葉植物に囲まれた窓際の席に座った。小さな通りに面した硝子窓は床から天井近くまで一面に張られていて木造の店内に陽光を迎え入れている。町屋づくりの建物を改築したのか、店は奧へと細長く広かった。時間的に開店したばかりみたいで他にお客さんの姿はない。窓際には2席しかないから、混雑時には競争率高いかも。
アンティーク調のテーブルの上、銀のメモスタンドに載せられた小さなプレートには珈琲のメニューが並んでいる。裏返すと紅茶のメニューもあるけれど、どうやらここは珈琲のお店らしい。
お水をテーブルに置き、温かいハンドタオルを「どうぞ」と手渡してくれた店員さんに、お店の名を冠したブレンド珈琲を頼んだ。
「畏まりました」
あ、なんだか丁寧な対応で落ち着くな。
顔を上げると、もう店員さんはこちらに背を向けてカウンターに向かっていた。男の人だ。私よりは上かな……でも、わりと若い人みたい。会社員もいいけど、美味しい珈琲を淹れられるとか、そういう特技があれば喫茶店の経営なんかもいいなぁ。
……いえ、珈琲淹れられるかどうか以前に、私に経営の才能なんてないです。
自分で一人つっこみをして、ため息をつく。
手にしていたタオルの温かさに慰められたような気がした。
さて、とハンディタイプの京都地図を出した。観光ガイドではなく、普通の地図。市街地の縮尺は3,000分の1から5,000分の1で、細かい道も載っているからこれがあればまず迷わない。
ぱらぱらとページを捲って今日明日はどこを廻ろうかなと考える。この時間が楽しい。歩き慣れた町だから、どこに行くのも自由気まま、気楽な一人歩きだ。
陽のある内に鴨川沿いをお散歩してもいいし、河原町あたりでお気に入りの喫茶店を開拓してもいい。
──そうだ、喫茶店と言えば。
このお店もすごくいいんじゃないか、と思った私のところへ、珈琲のとてもいい香りが漂ってきた。柔らかくて濃厚で、すこし甘みのある香り。珈琲ってこんなに香りがたつものだったかな。
思わず芳香の出もとを探してカウンターの方へと視線を向けると、お盆にカップを載せて店員さんがこちらへ歩いてくるところだった。縦には広いけれど幅の狭い店内に並べられたテーブルを器用に避けて歩いてくる。
そして湯気と香りのたつコーヒーカップを私の前に置いてくれた。
「お待たせいたしました」
置かれたカップは土の手触りがしそうな和風の焼き物。ゆるゆると光る褐色の珈琲がとても収まりよく見える。ただ、私には少し重そうかも。取っ手がついているけど両手で持ったほうがいいかな。
ああ、でも美味しそう……。
私が珈琲に見とれていると、店員さんはことり、と同じ焼き物で出来たミルクピッチャーを置き、
──もうひとつ。
「こちらはお砂糖に使ってください」
と、お猪口のような小さな焼き物を置いた。
そこに入っていたのは。
金平糖、だった。
まっしろな金平糖。ぜんぶ、まっしろ。
指先でひとつまみしたくらいの、量の。
ちいさなほし。
喫茶店でお砂糖代わりに出てくることもあると、聞いて知ってはいたけれど。
初めてだった。
でも、それが甘いことを私は知っている。
優しくて甘い味がする。
って、食べたことは幾らでもあるんだから知っていて当たり前なんだけど。
そういうことじゃなくて、
──なんだろう、これは。
色がついてないからだろうか。
子供の頃からおなじみの金平糖はもう、それはカラフルなもので。
こんなに真っ白なばかりの金平糖は初めて見た気がする。
「──」
何かを尋ねようと私が顔をあげると、チリン、と音がしてお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
先程と同じ柔らかいトーンで応えて、店員さんがお客さんを出迎える。
私は話しかけるタイミングを失って手元に視線を落とした。
気持ちまで落ちかけた私を、珈琲の香りがふわりと包んだ。そうだ、冷めないうちにいただかなくちゃ。こんなに美味しそうな珈琲なんだから。
両手でカップを持ち上げて少し口に含む。
と。
──うわ、何、これ、
「……美味しい……!」
思わず声を上げてしまい、途端、向けられた視線に気づいた。
また、やってしまった。
店員さんと、いま入ってきたばかりの若い男性客がカウンター辺りから少し驚いた様子でこちらを見ている。
「……すみません」
小さく頭を下げると、二人とも笑顔を浮かべてくれた。よかった、良さそうな人たちで……!
私はもういちど二人に頭を下げ、気持ちを落ち着かせて珈琲を口にした。
深くてコクがあるんだけど、苦くない。これなら甘党の私でも、ミルクもお砂糖も要らない感じ。
でも、せっかくだから。
ちいさな白い星をひとつ、ふたつ、褐色のなかへ落とす。
さっと溶けるものではないから、その時を待つようにゆっくりと珈琲を飲んだ。
なんか、いいな。
こういう時間。
店の奥ではさっきの二人の話し声と、珈琲豆を削る音。私が頼んだのとはちょっと違う、少し爽やかさのある香りが漂ってくる。
口元には深い味の珈琲。その底で優しく溶けていく白い星。
折り重なる香りと、味と、時間。
京都、という町で。
いつしか私は、ホームに降り立った時の寂しさを忘れてしまった。
そして、器に残っている金平糖に手を伸ばす。
そっと歯を立てると、かりっと──。
どこか懐かしい音がした。
終幕
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