期間限定薄桜鬼ブログ
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予告に出しておりました「天藍」その後の沖田×千鶴ですが
千鶴は出て参りません;
「天藍」のその晩、沖田さんと土方さんのお話です。
「天藍」はこちらをどぞ///
あぁ甘くないのですが……沖田さん一人称なのですが;
それでも構いませんよv と言ってくださる方は右下からどぞ///
千鶴は出て参りません;
「天藍」のその晩、沖田さんと土方さんのお話です。
「天藍」はこちらをどぞ///
あぁ甘くないのですが……沖田さん一人称なのですが;
それでも構いませんよv と言ってくださる方は右下からどぞ///
**********
傲慢にも「私が助けなければと思った」とか。
愚かにも「何も考えていなかった」とか。
或いはもう少し「女」であれば我欲にまみれた何かを疑うところだったけど。
結局のところ彼女の返答は僕の期待を、
すべて裏切った。
だからこれはご褒美だよ。
口元に自嘲の笑みが乗るのを自覚しながら、僕は土方さんの部屋の障子を開けた。
ご褒美だなんて。
──僕もたいがい嘘ばかりだね。
断りもなく土方さんの部屋に上がり込むのは僕くらいだ。近藤さんだって障子の前で一言声をかける。それでも無遠慮な僕を土方さんは咎めたことはない。
近藤さんや新八さん、平助を江戸へと送り出した土方さんは、一仕事終えた気配も見せずに何か書き物をしていた。夜遅くまで忙しい人だ。
僕は腕を組んで、開けた障子の桟(さん)に寄りかかった。
「土方さん。今日は旅支度の手伝いだとか理由をつけてましたけど……明日からも、しばらく千鶴ちゃんを外に出すつもりはないですよね」
挨拶も何もせず切り出した僕に、土方さんは筆を置いて苦笑した。
「ずいぶんと藪から棒だな」
「ほら、誤魔化した」
「そんなんじゃねえよ」
「……」
僕は障子を閉め、文机を挟んで土方さんの前に座った。何処に控えてるか分からない監察方に話を聞かれてもつまらない。
「千鶴ちゃんを出さないのは、長征に将軍が上洛するっていう噂を耳にして殺気立つ長州浪士たちが危険だからですか? それとも……そういう奴らを釣るために彼女を餌にするのが忍びないからですか?」
「──総司」
土方さんの眉が寄り、瞳が冷たい、硬質な光を放った。
でも僕が見たいのはその色じゃない。
「綱道さんが長州藩の過激派連中と行動を共にしてるなら、彼女がここに居ることを知って幕府との戦争の前に連れ出そうとすることだって考えられますからね。のこのこと浪士や長州藩の奴らが来れば斬っちゃえばいいし、それこそ綱道さん本人が来たら──」
「総司!!」
有無を言わせぬ厳しさで僕の言葉を遮った土方さんに、してやったりとほくそ笑む。
そう、今僕が話をしたいのは新選組の鬼副長じゃない。守りたいものに対して過保護になりがちな、ただの土方さんだ。
鬼だなんて言われながら、何もかもを強引に押し通しながら、土方さんは冷徹な「副長」と情に厚い「歳三」の間でせめぎ合う自分を隠している。雪村千鶴のことだってそうだ。有効に使う手だてを幾つも頭に浮かべているくせに、やっていることはただの保護だ。親鳥が雛を温めるように守って。傷つかないよう、風に吹かれないように。
だけどそれじゃ雛はいつまでたっても育たない。雛の時間は止まったままだ。
あの子はちゃんと歩けるのに。
「いずれにしても過保護ですよ、土方さん。……あの子は潔い子だから」
笑みを消して真面目にあの子の資質を評価すれば、土方さんは眉間の皺を少し緩めた。
「……斎藤にしろ、おまえにしろ、やけにあいつの肩を持つじゃねえか」
一君?
──ああ、今年の一月の話か。あの時は一君が、彼女を巡察に同行させるよう進言した。連れて歩くのに問題を感じない腕をしていると。僕は一緒にここまで来たけど、特に何も言わなかった。外に出たいと言う彼女の希望が叶おうと叶うまいとどうでもいいと思っていたから。
だけど今は。
僕はあの子を、あの子の運命の渦中に放り込もうとしている。
無謀な自己過信をしているなら突き落として。
何も考えられない子供なら、指先ひとつでからかって「子供」だと思い知らせてあげようと思った。
でも、そうじゃなかった。
彼女も戦っている。自分に出来ることを探しながら、戦っているんだ。
僕とは──斬り殺すことしかできない僕の戦いとは違う、彼女の戦いの行く末を見てみたいだなんて。
「あの子は池田屋で僕を助けてくれましたしね」
ふ、と笑いを零してしまうと、土方さんが少し驚いた顔をした。……ここで驚くかな。彼女を、僕にしては高く評価したところで驚いてほしかったんだけど。
まぁ、土方さんがすぐに苦笑したのでよしとする。これは彼が折れた時の表情だ。
「……わかった。おまえと斎藤が巡察に出る時には連れて行け」
「別に、誰と一緒でも大丈夫ですよ」
「好きにしろ」
苦笑したまま、土方さんは再び筆をとった。目的は果たしたし、この話はここまでだなと悟って僕も腰を上げる。
出て行きざまに振り返ると、何かを書き付けている土方さんの口元にはまだ笑みが残っていた。
こんなに楽しそうな土方さんは珍しい──いや、久しぶりだ。
何がそんなに楽しいのかって処には引っ掛かる気もするけど、まぁいいかと思いながら僕は土方さんの部屋を出た。
縁側に出れば、八木邸の屋根の上には、半円になりかかった銀色の月が掛かっていた。一呼吸して、僕は自分の部屋へと足を向ける。静まりはじめた屯所の中に僕の足音が溶けていく。冴えた月の光が晒してくれる足元に不安はなかった。
「──いい月だな」
天を仰がずに呟いた。
明日もきっと晴れる。
傲慢にも「私が助けなければと思った」とか。
愚かにも「何も考えていなかった」とか。
或いはもう少し「女」であれば我欲にまみれた何かを疑うところだったけど。
結局のところ彼女の返答は僕の期待を、
すべて裏切った。
だからこれはご褒美だよ。
口元に自嘲の笑みが乗るのを自覚しながら、僕は土方さんの部屋の障子を開けた。
ご褒美だなんて。
──僕もたいがい嘘ばかりだね。
断りもなく土方さんの部屋に上がり込むのは僕くらいだ。近藤さんだって障子の前で一言声をかける。それでも無遠慮な僕を土方さんは咎めたことはない。
近藤さんや新八さん、平助を江戸へと送り出した土方さんは、一仕事終えた気配も見せずに何か書き物をしていた。夜遅くまで忙しい人だ。
僕は腕を組んで、開けた障子の桟(さん)に寄りかかった。
「土方さん。今日は旅支度の手伝いだとか理由をつけてましたけど……明日からも、しばらく千鶴ちゃんを外に出すつもりはないですよね」
挨拶も何もせず切り出した僕に、土方さんは筆を置いて苦笑した。
「ずいぶんと藪から棒だな」
「ほら、誤魔化した」
「そんなんじゃねえよ」
「……」
僕は障子を閉め、文机を挟んで土方さんの前に座った。何処に控えてるか分からない監察方に話を聞かれてもつまらない。
「千鶴ちゃんを出さないのは、長征に将軍が上洛するっていう噂を耳にして殺気立つ長州浪士たちが危険だからですか? それとも……そういう奴らを釣るために彼女を餌にするのが忍びないからですか?」
「──総司」
土方さんの眉が寄り、瞳が冷たい、硬質な光を放った。
でも僕が見たいのはその色じゃない。
「綱道さんが長州藩の過激派連中と行動を共にしてるなら、彼女がここに居ることを知って幕府との戦争の前に連れ出そうとすることだって考えられますからね。のこのこと浪士や長州藩の奴らが来れば斬っちゃえばいいし、それこそ綱道さん本人が来たら──」
「総司!!」
有無を言わせぬ厳しさで僕の言葉を遮った土方さんに、してやったりとほくそ笑む。
そう、今僕が話をしたいのは新選組の鬼副長じゃない。守りたいものに対して過保護になりがちな、ただの土方さんだ。
鬼だなんて言われながら、何もかもを強引に押し通しながら、土方さんは冷徹な「副長」と情に厚い「歳三」の間でせめぎ合う自分を隠している。雪村千鶴のことだってそうだ。有効に使う手だてを幾つも頭に浮かべているくせに、やっていることはただの保護だ。親鳥が雛を温めるように守って。傷つかないよう、風に吹かれないように。
だけどそれじゃ雛はいつまでたっても育たない。雛の時間は止まったままだ。
あの子はちゃんと歩けるのに。
「いずれにしても過保護ですよ、土方さん。……あの子は潔い子だから」
笑みを消して真面目にあの子の資質を評価すれば、土方さんは眉間の皺を少し緩めた。
「……斎藤にしろ、おまえにしろ、やけにあいつの肩を持つじゃねえか」
一君?
──ああ、今年の一月の話か。あの時は一君が、彼女を巡察に同行させるよう進言した。連れて歩くのに問題を感じない腕をしていると。僕は一緒にここまで来たけど、特に何も言わなかった。外に出たいと言う彼女の希望が叶おうと叶うまいとどうでもいいと思っていたから。
だけど今は。
僕はあの子を、あの子の運命の渦中に放り込もうとしている。
無謀な自己過信をしているなら突き落として。
何も考えられない子供なら、指先ひとつでからかって「子供」だと思い知らせてあげようと思った。
でも、そうじゃなかった。
彼女も戦っている。自分に出来ることを探しながら、戦っているんだ。
僕とは──斬り殺すことしかできない僕の戦いとは違う、彼女の戦いの行く末を見てみたいだなんて。
「あの子は池田屋で僕を助けてくれましたしね」
ふ、と笑いを零してしまうと、土方さんが少し驚いた顔をした。……ここで驚くかな。彼女を、僕にしては高く評価したところで驚いてほしかったんだけど。
まぁ、土方さんがすぐに苦笑したのでよしとする。これは彼が折れた時の表情だ。
「……わかった。おまえと斎藤が巡察に出る時には連れて行け」
「別に、誰と一緒でも大丈夫ですよ」
「好きにしろ」
苦笑したまま、土方さんは再び筆をとった。目的は果たしたし、この話はここまでだなと悟って僕も腰を上げる。
出て行きざまに振り返ると、何かを書き付けている土方さんの口元にはまだ笑みが残っていた。
こんなに楽しそうな土方さんは珍しい──いや、久しぶりだ。
何がそんなに楽しいのかって処には引っ掛かる気もするけど、まぁいいかと思いながら僕は土方さんの部屋を出た。
縁側に出れば、八木邸の屋根の上には、半円になりかかった銀色の月が掛かっていた。一呼吸して、僕は自分の部屋へと足を向ける。静まりはじめた屯所の中に僕の足音が溶けていく。冴えた月の光が晒してくれる足元に不安はなかった。
「──いい月だな」
天を仰がずに呟いた。
明日もきっと晴れる。
終幕
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