期間限定薄桜鬼ブログ
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ようやくおきちづっぽくなってまいりました…が、
全体の分量の関係で今回は短めでございます;
第一回と設定はこちらへどぞ。m(_ _)m
幹部大騒ぎの第二回はこちらです。
次回、最終回です。
短めでごめんなさい(;;)な第三回、
もしよろしければ、右下のタイトルからお進みください///
全体の分量の関係で今回は短めでございます;
第一回と設定はこちらへどぞ。m(_ _)m
幹部大騒ぎの第二回はこちらです。
次回、最終回です。
短めでごめんなさい(;;)な第三回、
もしよろしければ、右下のタイトルからお進みください///
**********
箒を片付けてきますと言って広間を後にした千鶴は、言葉どおり、玄関先に放置していた箒を手に取ると草履を履いて土間に降り、定位置に立てかけた。
「………。」
それで仕事は終わったはずだったが、箒の柄に手を掛けたまま俯いた千鶴は何事かを考えている様子だった。
やがてぱっと顔をあげ、くるりと踵(きびす)を返して外へ駆け出してゆく。
踵を返した瞬間、細い指先がわずかに箒の柄を弾いていたのか。
誰も居なくなった土間で、ゆっくりと傾いていった箒がカランと音を立てて床に転がった。
千鶴が向かった先は八木邸の中庭だった。近藤が言った、後に禁門の変と呼ばれることになった戦が起こったあの夏の日に、沖田が空を見上げていた場所だ。
建物の角を曲がり中庭に足をかけたところで。
あの日と同じ木陰に座り込んでいる沖田を見つけ、千鶴は足を止めた。
彼はまた空を見上げていた。
千鶴もあの日と同じように空を見上げる。
季節は違っても、同じような天藍の空がそこにはあった。
「──平助が江戸で何かつかんできてくれるといいね」
「……え?」
不意に掛けられた声に千鶴が地上へと視線を戻すと、木陰に座ったままの沖田が微笑みを浮かべながら彼女を眺めていた。
さや、と秋の風が吹いて彼の顔に木の葉の影が散る。その隙間を縫って日射しが前髪を照らし、茶の強い彼の髪を金に染めた。
え、と声を発したまま反応を返さない千鶴に、沖田はからかうでもなく答えを与えた。
「綱道さんのこと」
「あ……」
千鶴は小さく零して指先を口元にあてた。
「……そうですね」
無理矢理のように口元に運んでしまった手を下ろし、笑顔を作る千鶴を見て、沖田は少しだけ目を眇(すが)めた。
少女が父親を探し求める姿に変化が現れたのは、池田屋の騒ぎがひととおり落ち着いてからのことだった。
変化は僅かなものであったし、彼女本人すら自覚はなかったかも知れない。しかし聡い者は気づいていた。
町行く人へ「すみません」と掛ける声に微かに混ざる怯えや、答えようと懸命に記憶を辿る人の逡巡を待つ間の落ち着きの無さは、初めて外出を許された頃の彼女には見られなかったものだ。
『綱道さんの件だが。長州の者と桝屋に来たことがあるらしい』
池田屋事件の夜、古高の拷問を終えた土方にそう告げられて蒼白になった千鶴。
『長州と幕府は仲が悪いのに、どうして父様が一緒に……?』
彼女の、掠(かす)れた声には誰も答えなかった。
そして沖田も、それには答えていない。
「千鶴ちゃん」
沖田は笑みを深くして、庭石を軽く叩いた。
彼が座っているのは連なって庭木の茂みと土庭を分ける庭石の一つで、彼はその隣の石を叩いたのだ。
再びさやと風が吹いて、小さな落ち葉が沖田の手をかすめて土の上へと落ちていった。
箒を片付けてきますと言って広間を後にした千鶴は、言葉どおり、玄関先に放置していた箒を手に取ると草履を履いて土間に降り、定位置に立てかけた。
「………。」
それで仕事は終わったはずだったが、箒の柄に手を掛けたまま俯いた千鶴は何事かを考えている様子だった。
やがてぱっと顔をあげ、くるりと踵(きびす)を返して外へ駆け出してゆく。
踵を返した瞬間、細い指先がわずかに箒の柄を弾いていたのか。
誰も居なくなった土間で、ゆっくりと傾いていった箒がカランと音を立てて床に転がった。
千鶴が向かった先は八木邸の中庭だった。近藤が言った、後に禁門の変と呼ばれることになった戦が起こったあの夏の日に、沖田が空を見上げていた場所だ。
建物の角を曲がり中庭に足をかけたところで。
あの日と同じ木陰に座り込んでいる沖田を見つけ、千鶴は足を止めた。
彼はまた空を見上げていた。
千鶴もあの日と同じように空を見上げる。
季節は違っても、同じような天藍の空がそこにはあった。
「──平助が江戸で何かつかんできてくれるといいね」
「……え?」
不意に掛けられた声に千鶴が地上へと視線を戻すと、木陰に座ったままの沖田が微笑みを浮かべながら彼女を眺めていた。
さや、と秋の風が吹いて彼の顔に木の葉の影が散る。その隙間を縫って日射しが前髪を照らし、茶の強い彼の髪を金に染めた。
え、と声を発したまま反応を返さない千鶴に、沖田はからかうでもなく答えを与えた。
「綱道さんのこと」
「あ……」
千鶴は小さく零して指先を口元にあてた。
「……そうですね」
無理矢理のように口元に運んでしまった手を下ろし、笑顔を作る千鶴を見て、沖田は少しだけ目を眇(すが)めた。
少女が父親を探し求める姿に変化が現れたのは、池田屋の騒ぎがひととおり落ち着いてからのことだった。
変化は僅かなものであったし、彼女本人すら自覚はなかったかも知れない。しかし聡い者は気づいていた。
町行く人へ「すみません」と掛ける声に微かに混ざる怯えや、答えようと懸命に記憶を辿る人の逡巡を待つ間の落ち着きの無さは、初めて外出を許された頃の彼女には見られなかったものだ。
『綱道さんの件だが。長州の者と桝屋に来たことがあるらしい』
池田屋事件の夜、古高の拷問を終えた土方にそう告げられて蒼白になった千鶴。
『長州と幕府は仲が悪いのに、どうして父様が一緒に……?』
彼女の、掠(かす)れた声には誰も答えなかった。
そして沖田も、それには答えていない。
「千鶴ちゃん」
沖田は笑みを深くして、庭石を軽く叩いた。
彼が座っているのは連なって庭木の茂みと土庭を分ける庭石の一つで、彼はその隣の石を叩いたのだ。
再びさやと風が吹いて、小さな落ち葉が沖田の手をかすめて土の上へと落ちていった。
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