天藍（てんらん） 其之弐（沖田×千鶴）

おきちづのはずなのに幹部で盛り上がってる第二回ですorz
第一回と設定はこちらへどぞ。m(_ _)m



なんかいろいろ申し訳ないのですが……
それでもよろしければ右下のタイトルからお進みください；

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「池田屋から三ヶ月ですよ。もう斬り合ったってどこも痛んだりしないんですけどね」
沖田の目は殺気とも見紛うほどの剣呑な光を放っており、その視線に射られているわけでもないのに千鶴は身をすくませた。
しかし沖田の目を見据える土方は揺るがない。
「平助は外傷だけだが、おまえは内腑も傷めてただろうが。食もまだ細ぇんだから遠出は諦めやがれ。それに今、京からおまえって戦力を失うのは痛ぇんだよ。──過保護で言ってるわけじゃねぇ」
「そう思ってるのは土方さんだけじゃないんですか」
「……総司」
土方は重いため息を吐きながら、十代の頃から共に過ごしてきた同士の名を零した。事態はどう見ても膠着状態だ。だが広間でそわそわと落ち着かなげな風情なのは千鶴一人で、あとの者は成り行きを静観していたり、吾関せずと雑談を再開したりしている。
周囲の様子をぐるりと一望し、近藤が「トシ」と笑いながら割って入った。
「新選組初めての大戦（おおいくさ）への着陣が叶わなかった総司の身にもなってやれ。焦るくらいが武士としては頼もしいじゃないか」
その発言に土方は微妙な、沖田は曖昧な笑みを浮かべたが、近藤の笑顔には一点の曇りもなかった。　
「総司も今回は堪（こら）えてくれ。長州征伐に備えて江戸で隊士を募るのも急務だが、その間に長州の過激派が京で何をしでかすか分からん。新選組の任務は京の守護が第一だからな。どんな理由があろうと、それを疎（おろそ）かにするわけにはいかんのだ。そのためには、」
「……わかりましたよ、近藤さん」
弁に熱の入ってきた近藤を、観念したように沖田が制した。土方は静かに瞑目し微かな和らぎを口元に浮かべ、三人のやりとりを眼前で見ていた山南は慣れた気配のため息をついた。
壁際では何事もなかったかのように江戸の噂話が交わされていたが、三人のやりとりを見続けていた千鶴は安堵と共に、何かを理解した色をその双眸に灯していた。彼女はここで始めて、彼らが江戸に発つ理由を知ったのだ。千鶴が新選組預かりとなって九ヶ月。幼いながらも新選組との距離を必死に測ってきた彼女は、彼らを識る術（すべ）を幾つか身につけ始めていた。
「すまないな、総司」
近藤の晴れやかな声が広間の空気を明るく変えてゆく。
沖田の顔も穏やかに晴れていった。
「本当は連れて行ってミツさんにも会わせてやりたいんだが」
「あはは、遠慮しておきます」
「鍛え甲斐のある猛者を募ってくるからな。剣術師範は大忙しになるぞ」
「それって暴れ牛みたいな人ばっかり来るってことですか？　それは嫌だなあ」
「……おいちょっと待て総司。何でそこで俺を見んだよ」
いつの間に彼らのやりとりを聞いていたのか、永倉が間髪を入れずに反応した。
「だって、新八さんも行くんだよね？ そんな人ばっかり連れて来ないで欲しいなって思ってさ」
「今のおまえの目線はそーいうこと言ってたんじゃなかろーが！」
いきり立つ永倉の傍で原田と平助は面白そうに目を輝かせ、千鶴は僅かに首を傾げた。沖田の台詞に含みがあると気づいたようだった。
「暴れ牛かあ。強そうでいいじゃねえか、新八」
「そーだよ強そーじゃん新八っつぁん！　ほら、木曽義仲の倶利伽羅峠とかもさぁ。暴れ牛大活躍したし？」
「ああ、あれな。牛の大群がツノに火ぃ付けて崖から駆け下りて来たってヤツだろ？」
「そそ、新八っつぁんなら一人で松明と刀持って駆け下りて来ても怖ぇよなー！」
「そりゃいいや！ いっそのことツノの代わりに頭に二本蝋燭立てりゃいいじゃねえか」
「佐之さん、それって丑の刻参りじゃん！ もっと怖ぇー！！」
床を叩いて爆笑する平助に冷えた視線を向け、永倉は腰を浮かして刀に手を掛けた。
「おめぇら……」
かちり、と鍔（つば）を鳴らす。
「……そんなに言うなら俺のツノに掛けるぞごるぁ！」
「──てめぇら！！」
野太い永倉の怒号を切り裂くように、土方の一喝が飛んだ。
「いい加減にしねぇか！！　全員まとめて叩っ斬るぞ！！」
鬼の副長の一喝を浴びて永倉は渋々と腰を下ろし、原田と平助は爆笑を忍び笑いにまで抑え込んだ。千鶴は彼らのすぐ傍で突然の騒ぎに目を白黒させていたが、視界の端にするりと動くものを見咎めてそちらに顔を向けた。
騒ぎを起こした張本人が音も立てずに広間を出て行くところだった。

天藍 其之参へ