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期間限定薄桜鬼ブログ
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最終回です。おつきあいありがとうございました!

他の回はこちら↓からどぞです。
設定付きの 第一回
幹部大騒ぎ 第二回
すこし短い 第三回


不甲斐ない管理人の甘味限度はこのくらいです…orz
もしよろしければ、右下のタイトルからお進みください///

**********



明らかにここへ来いという仕草に、千鶴はおずおずと足を進めた。だが庭石はそう大きなものではなく、隣の石に座れば沖田と腕が触れ合あってしまうことになるのは……見れば分かる。
とにかく沖田の前まで来た千鶴は笑顔の沖田を見、彼の手が置かれた石を見、困惑に眉を頼りなく下げながら、彼が叩いた石の一つ隣に腰掛けた。ここまで駆けてきた勢いはどこへやら、自分の草履の先に視線を落としてしまう。
庭木の細かな葉陰が所在なげに彼女の頬で揺れた。
そんな千鶴の顔を覗き込むように、傾けた上体をずいと寄せて沖田は口を開いた。
「そういえば、忘れてたんだよね」
「……何をですか?」
覗き込まれた分だけ反射的に上体を引いた千鶴だったが、話しかけられて視線は沖田へ向かう。彼女の相反する反応がおかしかったのか、沖田は少し笑った。
「池田屋でさ。後でいっぱいほめてあげるって言ったじゃない?」
「──あ……はい」
ぎこちなく頷いた千鶴の頭へと沖田は無遠慮に手を伸ばし、毛筋に沿ってゆっくりと撫でた。
猫を撫でる仕草によく似ていた。
「君さ。斬り合いの場なんて初めてだったよね」
声も、猫を愛でる如くに甘く響いた。
「なのに良く池田屋に飛び込んで来たね。自分も戦えるとでも思ったのかな?」
声音に反して内容は容赦なかった。
だが千鶴はさして驚いた様子も見せず、ただ頭を行き来する沖田の手を気にするような気配を漂わせながら、とつとつと、誠実に答えた。
「……永倉さんが手が足りない、誰か来いって叫んだ途端に、近藤さんが……」
「近藤さんが?」
沖田の手が束ねられた彼女の髪を掬う。
「大丈夫か、総司!って、すごい声で叫んで、それで思わず……もし沖田さんが怪我をしたなら、外に連れ出すことくらいならできるかなって……。あの場には、私しか居ませんでしたし……」
「ふうん」
掬った髪を伝って降りてきた指先が、千鶴の後れ毛を拾った。
千鶴は息を呑んでびくりと震える。さすがに視線が沖田から外れた。
──沖田の様子は変わらない。にこりとした笑顔のまま、拾った後れ毛を直すように撫でつけている。
「それで、血だらけの池田屋の中で僕を探してくれたんだ?」
「さ、探すっていうか……」
話をするときには相手を見ろと教育されているのか、千鶴の視線が戻ってくる。沖田の目が、楽しくて仕方ないというように細められた。
「近藤さんに……、お、沖田さんは二階で、二階に居るのは沖田さんと浪士が一人だけって、言われて、二階へ上がったんです……っ」
「そうなんだ」
後れ毛の感触に飽きたのか、今度は千鶴の頬に掛かる髪に指を伸ばした。
髪を耳にかける沖田の指が微かに頬を擦り、耳を撫で、千鶴はたまらず身を竦ませ目をぎゅっと瞑った。膝の上に揃えていた両手を、腰掛けた石について身体を支える。爪の先が白く染まった。明らかに、他人に触れられることに慣れていない娘の仕草だった。
「でさ」
しかし彼に会話を止める様子はなかった。相変わらずの調子で千鶴に問いかける。
「あのとき何で、茶碗なんて投げたの?」
微かに震えながら。
身を縮めながら、それでも。
のろのろと千鶴は目蓋を上げた。
あまりの緊張のためか、少し涙目になっている。
「……それって、何で、茶碗だったのかってことですか、それとも、何でそんなこと……したかって、ことですか?」
「…………」
千鶴の返答に、沖田は目を瞠(みは)り──。
そして爆笑した。
腰掛けた石のふちに片手をつき、もう片方の手で腹をおさえながら、身を折って笑った。
「あの……?」
慣れぬはずの緊張に耐えながら懸命に、真面目に考えて質問の意図を確認しようとしたはずの千鶴だったが、それを笑う沖田を責めるような表情(かお)はしていなかった。何が起きたのか分からないという疑問を顔に貼り付け、一方でどこか安堵したような色を滲ませている。
「そう来るとは思ってなかった」
千鶴がどう返すと思っていたかは定かではないが、沖田は笑いを収めてそう言った。
声から妙な甘さは消えていた。
彼はかがみ込んでいた姿勢を正すと千鶴を真似るように石の両脇に手を置いた。
「じゃあ、両方教えて」
「……はい」
千鶴は頷くと身体ごと沖田に向き直り、背筋を伸ばして両手をきちんと膝の上に揃えた。

「池田屋の二階で睨み合う沖田さんと浪士を見て、とにかく何でもいいから一瞬、相手の気を逸らさなきゃ、って思ったんです。そしたら、足下に茶碗が転がってて」
「ん? それが、何でそんなことしたかって理由?」
「違います。何で茶碗だったかって理由です」
沖田は少し彼女の言葉を考える素振りを見せた。
そしてもう一つの理由を尋ねる。
「じゃあ……何で、そんなことしたの?」
「それは……」
何故か彼女も考える素振りを見せた。
「沖田さんに、元気でいてほしかった、から……?」
「何それ?」
沖田が問い返すのも当然だ。彼女の返答は明らかに語尾が上がっていて、ものを尋ねる語調だった。
千鶴は困ったような笑顔でゆっくりと先を続けた。
「瞬間的に考えたことだから、私もはっきりと自分の気持ちを覚えているかどうか自信がないんですけど……、死んで欲しくなかったとか、沖田さんを助けたかったっていうのとは……ちょっと違ったと思うんです。沖田さんが負けるだなんて思ってませんでしたから」
そこだけには自信があるのか、千鶴は少し、彼女らしい笑顔を浮かべた。
「確かにあの時は押されてましたけど、剣技だったら沖田さんのほうが上だと思いました。ただ、変に速くて力の強い相手だなって……だから沖田さんに怪我とかがなくて、元気で、相手にほんのちょっとの隙さえあれば沖田さんが勝てると思ったんです。だったら、私がしなきゃいけないことは一つだけです」
思い出しながら、話しながら、千鶴の顔は迷いから晴れていった。
しっかりと顔を上げた彼女に木漏れ日が降る。
髪は輝き、口元は温かく照らされ、爪には桜の色が差し、黄金色をした小太刀の柄頭(つかがしら)がきらりと陽光を弾いた。

千鶴が片時も離さない小太刀。

彼女がその小太刀を抜いた姿を、沖田は一度しか見たことがない。

この中庭でのことだった。
『人を傷つけるかもしれない刃物を、意味もなく抜くなんてできません……!』
そう言った彼女を諭し、刀の使える人間かどうか確かめるために剣を抜かせた。
そして一合、剣を交えた斎藤は、彼女の剣には『曇りが無い』と評した。
その時沖田は彼女に対する評価を告げなかったが。

「──曇りが無い、か」
沖田が小さく呟いた言葉に、千鶴は首を傾げた。
「沖田さん?」
だが、それは独り言だったらしい。沖田はただ静かに笑った。
彼にしては珍しい、何も含まない笑顔だった。
そして告げた。

「……ありがとう、千鶴ちゃん」

沖田の言葉に、千鶴は花が咲くように顔をほころばせて立ち上がった。
「私こそ……助けてくれてありがとうございました」
頭を下げ、顔を上げて微笑む。
穏やかに笑顔を交わす二人の頭上には──。


雲ひとつない秋の空が青く、高く、展(ひろ)がっていた。



終幕


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だいすきです。

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