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期間限定薄桜鬼ブログ
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元治二年 二月下旬


その日未明、壬生の屯所には薄く雪が積もった。春先にしては珍しく粉塵のように細かな雪は、夜が明けても溶けて消えることなく未だそこに残っていた。
それほどまでの寒さ故か、幹部たちと千鶴が朝餉をとる広間はいつもより静かだった。人数も少ない。近藤と土方、井上は西本願寺への屯所移転工作に早くから各所へ出払っており、山崎と島田もその伴をして不在だ。いつも賑やかな平助は隊士募集の為にいまだ江戸残留、山南は──昨日から【新撰組】へ転属となり、人前に出ることが叶わぬ身となっている。
静かな広間の端で食事を終えた千鶴は「ごちそうさまでした」と箸を置いて頭を下げた。
「何だ千鶴ちゃん、もう食べねぇのか」
漬け物や煮物の残った千鶴の膳を横から覗き込んだ永倉が声をかける。
「……私が箸をつけたもので構わなければ、どうぞ」
千鶴は少し笑んで永倉の膳に幾つかの皿を移した。そして皆に軽く会釈すると、自分の膳を持って広間を出て行く。台所に向かうのだろう。
その後ろ姿を見送って、原田が永倉に声をかけた。
「なあ、千鶴の様子がおかしくねえか」
「おかしいってぇか……分かりやすく落ち込んでるよな」
「ありゃあ山南さんのことが原因だよな……」
「多分な。あの薬は綱道さんが作ったものだしなぁ。いろいろ考えるところがあるんじゃねぇの」
千鶴から分けて貰った煮物を咀嚼しながら、永倉は言葉を続けた。
「あいつが責任を感じるようなことは何もねえんだがな」
永倉の台詞に原田が頷いた時、斜め前から刺を含んだ声が響いた。
「ほんとだよね」
笑顔ではあったが、見るからに不機嫌と分かる沖田だった。
食べる気があるのかないのか、左手に持った味噌汁を箸先でかき回している。
「総司……おまえ、千鶴に薬の話をした時、何か余計なことでも言ったんじゃねぇのか?」
「べつに何も。薬の話しかしてないよ」
眉根を寄せた原田を見やるでもなく、ごちそうさまでした、と言って総司は席を立った。残された膳の上では味噌汁が椀の中でゆらゆらと揺れていた。結局、食べる気は失せたようだった。
沖田の姿が襖の向こうに消え足音が遠ざかるのを待ってから、原田は声をひそめて斎藤に問いかけた。
「あれ、どう思うよ、斎藤」
隣の沖田が席を立っても我関せずとばかりに箸を進めていた斎藤は、茶碗と箸を置いて原田を見た。
「さあな。……だが、総司には何か思うところがあるのかもしれん」
「何だそりゃ」
「去年の長州征伐の前のことだ。雪村の外出を控えさせようと思っていた土方さんに、その必要はないと総司が進言したそうだ」
「あいつがぁ?」
頓狂な声を出したのは綺麗に膳を平らげた永倉だ。
原田は右手に箸を持ったまま身を乗り出した。
「へええ……そりゃまた、どうして」
「俺も土方さんから聞いた話だ。それ以上は知らん」
そしてそれ以上は話すこともないとばかりに、斎藤は茶碗と箸をとって食事を再開した。
すっかり食べ終わった永倉はあぐらをかいたまま背後に両手をついて腹を伸ばした。
「あいつも意外といいところがあるじゃねぇか」
なあ、と顔を向けられた原田は、だが少し苦笑した。
「いいかどうかは置いておくとしても……ちょっと面白ぇことになるかもな。俺らはしばらく様子見といこうぜ、新八」
「お、おう…?」
目に疑問を浮かべながら頷いた永倉の前で、食事を終えた斎藤が無言で茶をすすった。


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こんばんは♪
こんばんはhalu様。玖來です。
見たい見たいとは思いつつ、かなり遅くなってしまったのですが(笑)本日、「天藍」全て読破させていただきました!
んーー、やっぱりhalu様とは非常に嗜好/思考が似ている気がする(笑、すみません)
こういう甘くない、「間」を補完していくタイプの話、大好きです。…いや、うちのあのnot甘話の量を見ていただければ一目瞭然な気もしますけれども(苦笑)
でも本当に、面白かったです。千鶴がかわいいし、沖田は相変わらずSで、なおかつちょっとした瞬間に千鶴に目を奪われて、それを自分で笑っているみたいなあの態度がイイ!うっかり三人組の会話は面白いし、この二幕一話ラストで、さりげにぽつっと斎藤が妙な事実を告げるのも…思わず頬がゆるみました。うまいなあ。
続けることを迷ったお話のようですが、…個人的にやはり凄く気になるので、ぜひとも拝見したいところです。というか、こういうことも交えて一度チャットとかでがっつり、halu様とお話がしてみたい…!(すみません)
ご自分のペースでの更新、楽しみにしております♪乱文失礼いたしました。
玖來 URL 2008/11/24(Mon)17:52:03 編集
ありがとうございます!
記事タイトルが毎回同じですみません、でもそれだけで胸がいっぱいで口とか目から御礼の言葉がはみ出してきそうです…
改めましてこんばんは、玖來様。コメントありがとうございました////
く、玖來様と嗜好/思考、似ておりますでしょうか…! 嬉しい御言葉です! そのぶん「好き」「面白い」が重なる瞬間があるかも知れないと思うと書く勇気が湧きます。
更に「天藍」への御言葉まで(嬉涙)
いえあのそのちょっとお褒めの言葉をいただきすぎて柱の影に隠れたいというか身の置き所がないというか、挙動不審でしょっぴかれそうです;;;
沖田さんはS(笑)でもあり、純粋でもあり、厳しく、優しく、子供が好きで嫌いで、土方さんが好きで嫌いで(笑)、etc、とにかく矛盾した面をたくさん持っている人ですから、「矛」だと思って書いた部分を「盾」だと思っていた方が読まれると嫌な思いをさせてしまうのではないかと迷ってしまったんです。
私は薄桜鬼が好きで、見に来てくださるかたも薄桜鬼が好きで──言わば同志。けっして嫌な思いをさせたいわけではないのに、と。
ですが続きが気になると言ってくださる方がいらして、玖來様もそう言ってくださるなら、書かせていただきます!
ちょっと入口は工夫しました。これが上手く機能してくれるとよいのですが。甘味100%のお話でないだけに、どうしたら良いのか今後も最善の方法を探していきたいと思います──はい、そんなことも交えてチャットも是非…! 私もいろいろお話がしてみたいです……ガラパゴスのゾウガメくらいの亀レスでよろしければ……orz
また玖來様のサイトにもお邪魔しに参ります。ご来訪、そして御言葉をありがとうございました!
halu 2008/11/25(Tue)14:51:28 編集
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